物語を歌う三十一文字

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こちらに続く、短歌解説シリーズPART2です。

癖短歌の発祥(?)はこちら。

 

やってみたらとても楽しかったのでいろいろと癖お借りしました。なんとなく小説のプロット書いてる感覚になりました。

 

【1】

密かに勝手に「短歌の師匠……!」と思ってる昨さんの癖お借りしたもの。

あるようでないようである共通点 無意識に探し「好み」と言い訳
似ているから好きなのか、自分が好きになったから似ているところを探してしまうのか?みたいな感覚を詠んだつもり。

似て非なる 今日はどっちで好きだろう 問いかけた波 静かな引き潮
結局、似てるから好きなのか、違うから新たに好きになったのか、という自分への疑問って日々その時の気分だったり、向こうの挙動だったりで感覚が違うと思っていて、波みたいに行ったり来たりゆらゆら繰り返すけど毎回違う形でもあるな~と。夜の静かな海でぼーっと波眺めてる情景が浮かんでて月も綺麗な夜かなと思ったので、月→潮の満ち引き→引き潮、と。あと波は電波とかけていてネットなんかに聞いても答えがあるものではないし、(実際「引き潮」ってそういう意味ではないけど)波が引いていく様、遠ざかっていくみたいに、問いには誰も答えてくれないんだよな、みたいなイメージでした。
そしたら昨さんが「引き潮」というワードを大変素晴らしい解釈で受け取ってくださり、自分で詠んだ歌だけど「ほんとだすごーい……」みたいな気持ちになって言葉って面白いなと思いました。

あなたときみは同じ星巡りだと見上げた先には月だけがあった
「星巡り」は星座のことでした。以前私の推し2人が同じ誕生日だったことがあり、それっていろんな占いとか全部一緒ってことだよな~やっぱり星座同じだと似てる性格や人生だったりするのかな、でも占いごときで同じ人生になるわけないけど、……みたいな、ちょっとひねくれた?感覚をギュッとしたのがこの歌です。同じであるその星座を探そうと空を見上げてみたけど、どれがその星なのか見つけられずに、でも月が綺麗だな、あぁあの人がすきだな、それでいっか、という感覚を三十一文字にしたらこうなりました。
そしたら昨さんがまた素晴らしい解釈で受け取ってくださったので短歌おもしれぇですね。銀河鉄道は正直1ミリも浮かんでなかったけど言われてみれば確かに!

「好きな人」というワードをなんの引っかかりなく「推し」に変換して詠んだな……とあとから気付きました。

 

【2】

癖短歌立ち上げの御方(?)であるしまさんの癖お借りしました。

もしこれがドラマだったら「この夜に2人は……」 現実:またねと解散
ドラマや映画で主人公が気付いてないうちに訪れるターニングポイントに入るナレーション、みたいなやつあるじゃないですか。括弧内はそのイメージで、でも現実は2人が始まるのか終わるのかとにかくどうにかなる決定的な夜が訪れないまま、またねの繰り返される日がこの先も続いていくんだろうな~……という未確定で先が読めるような読めないようなイメージで詠みました。

一度くらい本能のままに動け私それが出来ないから私
この感情は諦めでもあり、でも私は私だしな、という自己肯定でもあると思ってます。

大切じゃないけどたぶん必要な退屈捨てられず吐く「ただいま」
大切だったり大事にしたいものは、好きなものとか好きな人とか楽しい時間だけど、そうではない、けど生きていくには必要なものってたくさんあって、それを大切とか好きのために捨てるのって結構強い気持ちがいると思うんですよ。だけど逆に言えば強い気持ちがあればもしかしたら捨てられるかもしれないこともわかってる。その「たぶん」です。必要さも大切さも曖昧なまま、だけど捨てるの面倒なんだよな~というどうしようもなさの「たぶん」。あと「吐く」はため息のイメージから「言う」とかではなく「吐く」を選びました。

 

【3】

偏頭痛さまの癖お借りしました。

曖昧を溶かしたインクで書かれたラベル色褪せもう剥がさなきゃ
「関係を終わらせた方がいいと思っている側」の歌です。この二人の関係性にはハッキリとした名前がついてないんだろうなと思ったので、名付けの意味合いとしての「ラベル」、ある程度時間が経っている印象からの「色褪せ」。あと言葉として入れられなかったんですが、透明なガラス瓶の中に二人がいて外と一見隔たりがないように見えるけど透明な壁のある二人だけの世界に生きているようなイメージを抱いていました。

割るために手を振り上げて 共鏡 見慣れたいつもの「またね」と目が合う
「割るために手を振り上げて」が終わらせた方がいい側、「またね」と言っているのが一生一緒にいようね側で、共鏡は合わせ鏡のことです。いつまでも終わりがないイメージ。鏡なので、終わらせよう側も、結局本心では終わりにしたくないと思っている(かも)という想像込みで詠みました。

名前のない、代わりはいない、先もない、ここは僕らだけの有人島
これは「無邪気に一生一緒にいようね側」の歌です。1首目がガラス瓶で冷たいイメージだったのに対して、こちらはちょっと南国っぽい島のイメージ。楽観的に、きみがいればあと何もなくても幸せじゃん、みたいな。
余談ですがこの解説書いていて、有人が「友人」という変換で出てきてそういうダブルミーニングもありだったな~と思いました。あと最後の「、」ない方がよかったな~。

 

【4】

遊佐さんの癖お借りしました。

なんとなく3首時系列で、他に恋人が出来た→婚約が決まった→結婚前夜、みたいなイメージです。

なんかさぁすごい勝手なんだけどその人 おれ/わたし にめっちゃ似てない?
そこにいるの、俺/私でもよかったんじゃね?みたいな、でも直接告白とかはできない、なんならこれも本人じゃなくて友達とかにこぼしてるくらいのどうしようもなく受け身なさまを詠みました。

「幸せ?」の問いに今更「うん」以外答えられると思うの? きみに
もし「幸せじゃない」って言ったらなんとかしてくれるの?という気持ちがあっても「うん」しか言えないし、そういう人だったから恋人になれないままの2人なんだろうなと思います。

「来世とか信じる?」「ううん、信じない」 最後の藁が風に飛んでく/今世で奪いに来いよばかやろう
「来世では恋人になりたいね」だなんて無意味でしかないけど、ふたりがふたりでいたことを相手にも忘れてほしくなかった、でもそんな小さな希望すらも持たせてもらえないんだな……と完全に諦めるひとりと、「来世なんて不確かなものじゃなくて今だよまだ間に合うよ」と思うけど最後まで自分からは行くことは出来ないひとり、の歌です。

 

【5】

独活部さまの短歌お借りしました。

私では正せる隙を生み出せずそこがいちばん恋しいとした
好きな人が男女みんなでわちゃわちゃふざけ合ってて(その中におそらくカノジョらしき人もいて)眼鏡とられたりなんだりしてるのを教室の隅から眺めながら、ほんとは自分もそのくらい近づきたかったけど悔しいから眼鏡かけてる状態がいちばん好きって思いこむ女の子、のイメージです。歪みが生まれている状態=眼鏡をかけている状態であることと、「歪み」という文字面から対義語的に「正す」が出てきてこうなりました。

「コンタクトにしたんだ」「そっか」懐かしさ空振り ふいの変化球「今度、」
同窓会で久々に会えることがわかってて、さすがに片思いずっと引きずってきたわけじゃないし今は懐かしさ以外感じないけど、眼鏡の彼が好きだったな~って思い返してていざ会ったらコンタクトにしてて、懐かしむことすらさせてもらえないのかってちょっとだけ寂しく思ってたら思いがけず次の機会のお誘いをもらう歌です。この「今度、」は「みんなでどっか行こうよ」でも「2人で」でもどっちもアリです。

おかえりとあくびと共にある歪み全部まるごと愛してやまない
外ではコンタクトの彼が家の中では眼鏡をかけていてぼさぼさ頭のスウェット姿であくびの傍ら「おかえり」って言ってくれる、その関係性とか生活とかも全部含めてあの頃も今もこの人がすきだな~っていう愛の歌です。学生時代、眼鏡をとった姿を見られる距離にいたいと願ったけど、彼がコンタクトにしたことで逆に眼鏡姿を見られる関係性が近さを表すことになっててそれが嬉しい気持ちもあります。
確か元々1首目で「愛してやまない」を使っていて、それが強がりから本物になったように見せたくて3首目にも同じ言葉を入れたんだけど、ちょっと違うかもな~ってなって結局1首目の方を変えて恋から愛へ変わっていった流れになりました。

3首通して、学生時代の片思い→同窓会→結婚生活、という時系列になってます。
「輪郭の歪み」からいっこの物語作ってその3シーンを短歌にした、みたいな作り方してみたんですがこれめっちゃ楽しかったです。自分でもお気に入りの歌になりました。

 

【6】

線香さまの癖お借りしました。

もう今は解けない数式についた丸の数だけまだ覚えてる
学生時代の問題って今はもう何がなんだかわかんないけど、あの頃はちゃんと解けてたんだよな、っていう歌ですね。

引き出しの奥で眠ったマーブルのペンは目覚めず無色をなぞった
捨ててはないと思うけどどこにあるかはわからん、みたいなペンがふいに見つかって試し書きしてみたけどインク出なかったわ~っていう場面を詠みました。いい思い出ってカラフルなイメージがあったので、世代的に懐かしさのある「マーブルのペン」でたくさんの色味を、その対比として失われてしまったことを「無色」で表してみました。

走馬灯飾るつもりの絵のはずが額縁の方が長持ちなんだね
このお題を見たときに最初に浮かんだのが「額縁だけが残ってしまった絵」みたいなイメージで、そこから大事にしてた思い出→走馬灯の流れで浮かんだものです。ちゃんとした絵(?)って、額縁と絵で一体の作品になるよう作られていると聞いたことがあって、そういう感覚で記憶をたどる手がかりとしての額縁が表せたらいいな~という気持ちもあります。

 

癖短歌ではないけどお題で詠んだものなのでこちらも掲載。

この3首は特に解説も何も読んだままの意味という感じなのですが、両片想い状態の2人が「すきです」「付き合おう」ってお互いに言いたい話です(載せたくせに解説しない)。

 

番外編

ヘキというには思いつきすぎて癖短歌タグをつけるのは烏滸がましいな、と躊躇してしまったけどくくりとしてはざっくり同じかなと思うのでこれもこちらで解説。
テーマのきっかけは某ラジオの企画です。なのでアイドル短歌でもあります。よって、以下あくまで「アイドルとして、仕事としてやってる」を理解したうえでの話です、文面だけ読むとガチ恋のやばいやつみたいになりかねないので一応注釈!笑

そうやって言うけど結局わたしをさ、きみのものにはしてくれないじゃん?
「浮気すんなよ」って、明確にこちらに「求めてる」言葉じゃないですか。けどアイドル→視聴者は究極のところ一方通行で、こちらからそちらに求めることって本当のところ出来ない関係性だなと思います。「絶対浮気しないからそっちもね」とは言えない遠さを明るい感じで詠みたかった歌です。

その言葉そのままきみに返します 私以外を見ないで(冗談)
独占欲って厄介な感情ですよね。付き合いたいとか思ってなくても「ライブでこっち見てほしい」「ファンサほしい」くらいは私も本心で思ってたりするし、けど「そんな虚しい期待してたって叶わない方が多いんだから今あるものを楽しもう」って切り替えようとしてみたり「ライブ行けただけでありがたい!」って言い聞かせるようにSNSに呟いてみたり。もちろん「パフォーマンス見れただけで十分!」も本心だし、そもそも「アイドルとして存在してくれてありがとう」「好きに幸せに生きてほしい」も本心。いろんな気持ちがある中で、「(冗談)」で誤魔化してみたけど確かにある本音、みたいな感覚を詠んだつもりです。

本気は1番、浮気は2番、なら私はずっと0番でいる
「浮気すんなよ」には「俺以外に」が含まれると思うので、つまり「浮気」には前提として「本気」が存在していて、だけどそういうフィールドにそもそも乗っからなければ「浮気しない」も嘘にならないでしょ、みたいなちょっとずるい気持ちを詠みました。

あと私の投稿したお題で詠んでくださったやつ〜〜うれハピすぎ。これも一種の共作みたいなものかなと思うと創作の楽しさ倍!

 

 

短歌については今後も作ったときの感覚とか感想をまとめていけたらいいなと思ってるので興味ある方は引き続きよろしくお願いします~!